• 出汁そば(黒)

  • 京都市内にも寺町という電気街が存在した。何故過去形かと言うと、すでに殆どの中〜大規模店が撤退してしまったため、その体をもはや成していないからだ。そんな通りに行列の出来るラーメン屋がある。およそ電気街に似つかわしく無い、非ガッツリ系の極地みたいな『猪一』である。
    移転後の訪店は初めて。入店するや、鰹節の芳しさが出迎えてくれる。オーダーは基本味の出汁そば(黒)。丼の上で乱舞する0.01mmの削り節は、たちまち溶けてしまう儚さ。甘めの濃口醤油を合わせた純魚介スープ……と言うより出汁は、背筋を正して全粒粉の麺共々啜りたくなるほどの深み。京もち豚のレアチャーシューと、メンマではなく煮筍が乗っている。卓上のとろろ昆布で味と食感を、青柚子の皮で香りを変える。
    ラーメンから中華とジャンクの二大要素を排し、和食の粋を以って再構築した麺料理と言うべきか。だが故に、これが果たして『ラーメン』なのかと問われると、正直微妙と言わざるを得ない。「俺ぁラーメン食いてぇのよ!脂浮いたスープをガツンとキメてぇのよ!」と言う御仁は別の店をあたるのが賢明。
    ついでに言うと、コスパに関しては京都市内で最悪の部類に入ると思われ。