• つけそば大(1200円)

  • 今回いただいたのは、江陽軒の看板「つけそば」。丼に美しく折り畳まれた艶やかな麺がまず目を奪います。黄金色に輝く平打ち麺は、見るからに小麦の香りが豊かで、箸を持ち上げた瞬間からその弾力と瑞々しさが伝わってきます。

    チャーシューはいつも別皿、通常はスープと一緒に提供されるのだが、レアの状態で食べたいので、、、自分で熱々のスープに沈めることで絶妙な火入れとなり、赤身の旨みと脂の甘みがバランス良く立ち上がります。この「自分で仕上げる」一手間が、個人的には好きです。

    スープは、イリコと昆布の出汁が前面に出た滋味深い味わい。魚介の香りが鼻腔を抜けた後、じんわりと醤油のコクが広がり、最後にはわずかな苦みがアクセントとして余韻を残します。油分は控えめでありながらも旨みは濃厚、麺を潜らせた瞬間に小麦の香りを引き立ててくれる、計算されたつけ汁です。

    麺を啜れば、ツルツルと滑らかな口当たりの後に、しっかりとしたコシが歯を押し返す。小麦の香りが噛むごとに広がり、スープの旨みと重なり合う瞬間は至福そのもの。ボリュームは大で300gながら、気づけば一瞬でなくなってしまうほど、箸の進みが止まりません。

    食べ終わりには、もちろんスープ割。魚介の風味がさらに柔らかく広がり、最後の一滴まで飲み干したくなる。レンゲを口に運ぶ手が止まらず、「もう少しだけ」と思いながらも、いつの間にか丼は空になってしまう――そんな魔力を持った一杯です。

    さらに魅力的なのは、麺だけのテイクアウトが可能な点。自宅で好みのスープを仕立てれば、オリジナルのつけ麺を楽しむことができる。江陽軒の麺はそれだけで成立する完成度を誇っており、家庭の食卓を贅沢に変えてしまう力を秘めています。

    ――魚介と小麦の調和、そして食べ手自身が仕上げる楽しみ。江陽軒のつけそばは、単なる一杯の食事を超えた“体験型のご馳走”でした。