• 琥珀

  • 千本丸太町の《醍ぶ》を久々に訪れる。この店の名を見る度に、2020年というあの特異な一年を思い出す。と言うのも《醍ぶ》はその年の春、つまり最初の緊急事態宣言の只中にオープンしたのだ。誰が見ても最悪なタイミングの船出ながら、今日まで営業が続いているのだから相応の実力と評価があると見て良いだろう。
    ラーメンを待つ間、ちょうど4年前の今頃を思い返していた。国内外から掻き入れた観光客でごった返しているはずの京都から、人がごっそりと消え失せた異様な日常。飲食店はデスゲームに巻き込まれたかの如き理不尽さで、唐突に通常の営業形態を禁じられた。どこの店も半ばパニック&手探り状態で様々なアイデアを絞り出し、実行に移すことを迫られた。《鶏谷》は麺類やチャーシューの持ち帰りメニューを拡充させ、《キラメキ》系列はカレーを開発(この時期カレーを作るラーメン屋が多かった記憶がある)、ここから斜向かいの《しゃかりき》は一時期だけ朝ラー営業をしていた。どの店も、先の見えない闇の中で生き延びようと必死に抗っていた。「そんな気持ちに応えたい」と、ご時世に歯向かうようにラーメン屋通いを加速させたのも、この一年が切っ掛けだった……。
    そんなあれこれを回想している内に、着丼。透き通ったスープが貝の旨みと甘みを存分に感じさせてくれる。《優光》出身だけにパッと見unchiの香りがプンプン漂うが、いざ食べてみるとそうでもない事に気付く(特に麺)。そしてこの店の【W炙りチャーシュー丼】は、少量の飯にこれでもかと刻みチャーシュー&タレ&マヨを乗せ、さらに味玉1玉分まで付けた超コテコテ仕様で、自分の中では【京都市内の麺屋の美味い飯モノ10選】入りしている。